小野国際社会保険労務士事務所

タイの公的年金制度について

おはようございます、小野です。

以前このコラムで、「福利厚生に対するタイ人の感覚」というテーマを取り上げさせて
いただきましたが、今回はその中で少し触れた、「タイの年金制度」に関し、もう少し掘り
下げてお話させていただきたいと思います。

新たにタイに赴任されてきた方に、タイの福利厚生についてお話させていただく
際に、「え・・・タイにも年金制度があるんですか?」と、少し驚かれることがあります。

日本と同様にタイにも公的年金制度があり、社会保険(Social Security)に15年
以上加入していれば、55歳を迎えた時に年金の受給資格を得ることができます。
しかし残念ながら、タイの年金額は決して充実しているとは言えないのが現実です。

タイの公的年金制度の大きな問題点として、高所得者でも低所得者でも、受け取れる
年金額には大きな差が出にくい点が挙げられます。例えば、給与が15,000バーツの人と
60,000バーツの人の年金月額を比較しても、3,000~5,000バーツと微々たるものです。
そもそも年金額を計算する算定基準給与上限が15,000バーツであるため、受給額には
ほとんど差が生じません。いくらタイが日本より物価が安いと言っても、月5,000バーツで
生活するのには無理があります。

この設計は所得格差を抑える狙いがあるようですが、高所得者にとっては老後の収入としては
全く十分な年金額とは言えません。且つ、タイの公的年金は終身支給ではなく、支給期間に
制限があります。

現在タイでは従業員と雇用主はそれぞれ給与の5%を社会保険料として支払い、上限は
最大750バーツとなっています。この金額は、算定基準となる給与の上限が15,000バーツに固定されているためです。

さすがにこの年金額ではキツイだろうということで、もう何年も前から保険料を段階的に引き上げる
議論がなされ、2024年から算定基準給与を17,500バーツに引き上げ、保険料も875バーツに増額する予定でした。
しかし、労使双方からの猛烈な反対があり、最終的に計画は見送られました。

日本の公的年金は皆さんご存知の通り、全員参加型の「国民年金」と、企業に勤務されている
方向けの「厚生年金」の二層構造になっています。老後の年金は、所得比例で支給されるため、
勤労期間中の収入に応じた生活水準を維持しやすい設計となっています。そしてタイと大きく
違う点は、終身支給が原則となっていることです。

タイでは社会保険に加入するのは主に企業に勤務する方が対象であり、自営業者や
フリーランサー、農業従事者には全く保障がありません。

ただ年金額は低いですが、タイでは親孝行が重要な価値観とされており、子どもが親の老後
の生活を支えるのは「当たり前」と考えられています。特に地方部では、親の面倒を見るために
都会で働く子どもが仕送りをするケースが一般的で、現在の高齢者の方はそもそも年金を
あてにしたいない部分もあります。
既に少子高齢化が始まったタイなので、制度が今後どのように運営されていくのか注視して
いきたいところでもあります。

日本の公的年金制度は終身支給や医療保障の充実といった点で優れていますが、
少子高齢化や人口減少、独身者の増加といった課題が進行中です。
支える側の人口減少は制度維持への大きな負担となっており、同時に受給開始年齢も
68歳や70歳、それ以上ととより高齢化される議論も進んでおり、そもそも30代以下の
若者は年金制度にほとんど期待をしていません。

タイでも日本でも、社会構造や家族観が変化する中、人生のセカンドステージに向けた
個人の準備が、これまで以上に重要になってきていると感じます。

本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。(小野)